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石川淳哉「ソーシャルグッドの男」 Vol.06

気づきの2016年から行動の2017年へ

さまざまな事件や事故、災害が起きた2016年は、これまで以上に社会や個人の在り方について考えさせられる一年でした。ソーシャルグッドの男・石川淳哉が感じた変化と、2017年に始まる新たな計画についてご紹介します。
(取材・文/水谷美紀)

矛盾やひずみが可視化された2016

水谷 2016年は熊本・大分の地震や米大統領選、電通の過労死問題など、衝撃的な出来事の多い一年でした。それを受けて、旧来までの社会システムや暮らし方に危機感を覚えた人、変化の必要を痛感した人も多かったように思います。石川さんから見た昨年はどんな年でしたか。

石川 いよいよ変わらなくてはいけないという気づきがあちこちで起こった年だったと思います。これまで見えないようにしていた矛盾やひずみが完全に表に出てしまい、気づかないわけにはいかなくなった。その点では2016年は大きな進歩と変化だったと思います。ただ、気づいても即、行動とはなっていない。それは新しい仕組みをビジネス化するスキームや予算の問題以上に、人の気持ちがまだまだ追いついていないからです。

水谷 なんとかしなくてはと思っても、そこで終わっているということでしょうか。

石川 人には生活がある以上、なるべくならこのままの生活を維持したいと考えます。そういった大多数の人々の「変わりたくない」という磁力は強力です。だからといってもう、この状態を単なる分断という言葉で片付けてしまうわけにもいかなくなりました。既にあらゆる問題はあぶり出され、可視化され、無視できなくなった。2017年は、そんな気づきが少しずつ行動や変化となって表れて来る年になるでしょう。

水谷 働き方に関しても、日本中が立ち止まり、考えさせられた年になったと思います。過労死問題については、どうお考えですか。

石川 擁護しているように誤解されたくないのですが、あれは一広告会社だけの話ではなく、僕も含めた全ての人が真剣に考えなくてはいけない事だと思っています。実際、僕の知っている会社の多くは広告関係に限らず、あの事件を他人事ではなく自分事として真摯に受け止め、今、必死に働き方の制度を見直しています。ただ僕は、コミュニケーション、つまり何かを伝える仕事というのは、非常に慎重に行なわなくてはいけないと常々思って仕事をしています。間違ったことを伝えたら、それはゴミだし、それどころか大変な罪です。そのような繊細なことを生業にしている会社であるならば、社員同士も今の時流に合った、納得できる価値観で繋がっていないといけない。それは、給料がいいから、忙しい業界だから仕方ないとか、大企業だからといったことではもはやないと思うし、当然、恐怖政治のような旧いスタイルでは無理でしょう。みんなで変わるべき。弊社もそれを実行する年にしなくてはなりません。

クリエイターはもっと“フラジャイル”に

水谷 2017年、広告の在り方、広告業界の在り方についてはどうお考えですか。

石川 もう一度、クリエイティブって何だろう? と問いただす必要があると思っています。広告に限らずあらゆるクリエイティブを、社会の変革に対するヒントや気づきを与えるものだとするならば、それを作っている僕達自身が変革にもっとも敏感でないといけません。クリエイティブに対峙する時、フラジャイルな感覚(触ったら壊れるくらいの脆さ、繊細さ)を持ち、神経を研ぎ澄まさないと、世の中にとって何が一番重要かということに気付けなくなってしまいます。そうなったらもはやクリエイターではありません。そこはもう一度、各自が見直すべきだと思います。そして、社会のあらゆる問題に気づき、それをカタチにできる組織を運営できることが、これからのクリエイティブカンパニーに求められていると思うのです。そこをもう一度見つめ直し、本気で実現するために僕は動きます。

水谷 クリエイティブが社会に漂う閉塞感や諦めに近いムードを打破するきっかけになるとお考えですか。

石川 もちろんです。例えば2001年と2011年、世界が大きな悲しみに包まれた時、再び人々が明日に向かって進む勇気をクリエイティブは支えてくれました。2017年、あと数日でトランプがアメリカの大統領に就任します。アメリカでは他の候補がいないことを嘆き、TR待望論が盛り上がっているのだそうです。TRって? セオドア・ルーズベルトの事ですね。テディベアの名前の由来でもある彼は就任時42歳と10ヶ月という史上最年少で、ポーツマス条約での和平交渉に尽力しました。この和平交渉の実績により、ノーベル平和賞を受賞しています。そんな彼のような人の到来を願っているのです。いくらブレイクスルーを多く生み出した人といえども、少し遡り過ぎですよね。でもそのくらい、政治も教育も経済も、もうブレイクスルー出来ないと思っている人が多いわけです。けれどもそんなことはないと僕は言いたい。必要なのは誰かではなく自分自身が一人一人、想像する事だし、創造する事だと思うんです。そのためにも、世の中を勇気づける物を生み出すクリエイターが一人でも多く出て来て欲しい。僕自身も一つでも多く生み出していこうと思っています。

水谷 広告業界に限らず、個人の働き方もますます変化していくのでしょうか。

石川 するでしょうね。移住したり、プラントハンターのような生き方がますます増え、組織に頼らなくても自分の力だけで生きて行ける時代にますますなっていくと思います。逆に組織が組織でなくてはならない事を証明しなくてはならないのが2017年なのではないでしょうか。もう一つ、日本でマイノリティスタートしたクラウドファンディングに、一億円を超えるプロジェクトがいくつか誕生しています。これは、プロジェクトや資金調達の仕方にかなり勇気を与えた事例だと思います。

ソーシャルグッドがさらに浸透する年に

水谷 時流という言葉が出ましたが、まさに昨年は、時流の波に乗ってソーシャルグッドに対する人々の関心が一気に高まりました。ソーシャルグッドプロデューサーとしての依頼や相談も増えたのではないでしょうか。

石川 ここに来て増えて来ましたね。2017年は大手企業もCSRやCSV、SDGsへの取り組みを本格化させていきますが、その幾つかに、プロデューサーとして関わっていきます。他にもかなり多くのオファーが届いています。僕の作っているものは、これまでになかったり、形のないものだったりするので、非常にわかりにくい。それなのに、よくぞ僕を見つけてくれた、依頼してくれた、という気持ちです。そういう部分では「ソーシャルグッドの男」を名乗り、言い続けてよかったです。もっとも、こんな分かりにくい僕に声をかけてなくてはいけないくらい、世の中の悩みが、本当になんとかしなくてはいけない域に来ているのでしょう。

水谷 広告のプロで、ソーシャルグッドを行なっている人というのも、実は珍しいのではないでしょうか。

石川 そうですね。現状、ある程度のクリエイティブに携わる株式会社の代表であり、かつ公益社団法人の代表理事も務めている人間って僕だけなんです。両方の気持ちが分かる位置にいる、他にいない私益と公益の間を泳ぐフリンジマンとして、出来ることは大きいと思います。といっても、実際はシナプスが繋がるように、まずは小さいところから繋げていくことになるでしょう。大手企業がいきなりめちゃくちゃソーシャルになることは難しいですが、例えばその中でも宅配サービスだけはソーシャルにする、というような事は増えて来ると思います。

水谷 講演会のような場以外で、若い人や小さな企業が石川さんに会えたり、話を聞ける機会はないのでしょうか。

石川 実は今年、都内に研究室を作ろうと思っています。といっても僕が一方的に教えるとか講義をするのではなく、持ち寄ったアイデアをみんなで一緒に揉んで行く、思考を持続可能な事業に定着させるグラウンディングワークをするような場になればと思っています。他には、ソーシャルグッドに関しての書籍を出そうと思っています。どちらもまだ計画途中ですが、ここで話した以上、必ず実現させるので楽しみにしていてください。

(Vol.07に続く)

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石川淳哉junya ishikawa

ソーシャルグッド・プロデューサー
1962年大分県生まれ。世界のさまざまな社会課題を解決するために、クリエイティブの可能性を追求する人生と決断。
株式会社ドリームデザイン(HD)代表取締役、株式会社ベターワールドエナジー取締役、公益社団法人助けあいジャパン共同代表理事、一般社団法人with ALS理事、一般社団法人国際平和映像祭顧問

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