The Interviews

操上勝司「未来を描くデジタルマーケティング」 Vol.06

デジタルは未来を歩くパートナー

多様化するデジタルを使って、企業も新しく出来ることを常に模索しています。特に動画の分野では、時代やニーズにフィットした独自の試みで成果を挙げている例が増えています。
株式会社idiom代表・操上勝司のThe Interviews最終回は、未来に向かうデジタルの可能性について語ります。
(取材・文/水谷美紀)

「教える」コンテンツの人気

デジタルで出来ることが増えた今、企業も常に新しい可能性を求め、日々挑戦しています。特に動画コンテンツをどうビジネスに結びつけていくかは大きな課題になっており、コマーシャルのように印象を伝えるだけの使い方ではなく、より実用的なコンテンツが求められています。

ライブやイベントを開催し、その様子をネットで中継するというのは今では当たり前になった動画コンテンツですが、それ以外で成功し、浸透したものに「動画で教える」ジャンルがあります。中でも家庭教師の会社や学習塾がおこなっている授業を無料で受けられるサービスは、プロモーションとして高い効果を上げているようです。近年、大手の学習塾で売り上げが伸びているのはデジタルを上手く取り入れているところで、デジタルシフトが難しい会社は伸び悩んでいますね。

無料コンテンツだけでなく、有料の動画コンテンツの需要も高まっています。ある株の取引サイトが運営する有料会員向けサービスには、トレーダーがその日の株式相場の解説や、翌日の予測をするコンテンツがあり、これまた非常に好評のようです。こういったものはさらに進化して、会員との質疑応答がライブで出来たりすると、さらに面白くなっていくでしょう。

デジタルでは代替できないもの

このような「何かを教わる」動画コンテンツは、他の業種にも適用できます。自分が購入した製品を作った技術者やデザイナーの話が聞きたい、質問がしたいという気持は多くの人が持っています。記事を読むという従来からのニーズはなくなりませんが、デジタルならそれ以外にもっと色々なことが出来ます。

dマガジンやKindle Unlimitedなどの登場で、これからは雑誌や本を買わなくなるというより、最初からデジタルで読むものという認識の人も増えて来るでしょう。音楽もAmazon プライムなどの出現で、定額で聞き放題の時代に突入しました。映画もNetflixやhuluなどの人気により、映像作品は家の中でタブレットを使って観るもの、というライフスタイルがさらに強化されました。

ところがそんな中でも、依然デジタルに吸収されないものがあります。CDが売れなくなった代わりにコンサートに足を運ぶ人は増え、大作映画やSNSで話題になった映画は、劇場が連日満員という現象も起こっています。

中でも印刷物は、デジタルで情報を読めればいいというものとはまったく異質の市場が依然、存在しています。特に写真集は、やはり印刷物で欲しいという一定のニーズがあります。僕自身も、そういった“高品位な印刷”が好きで、美しい写真に優れたアートディレクション、そこに素晴らしい印刷が組み合わさった写真集なら多少高価であっても欲しいと思います。実物のクオリティにデジタルが叶わない分野です。

映画にもなりましたが、ドイツにシュタイデルという出版社があります。デザインから製本まで一括で行なっていますが、ここが出している本や写真集は本当に素晴らしく、このクオリティをデジタルに置き換えることは不可能です。実際、世界の名だたるクリエイターやアーティストがシュタイデルから本を出したいと願い、また、それを求めるファンも世界中にいます。利益や効率優先の対極にある、クオリティ優先の世界です。

映画『世界一美しい本を作る男〜シュタイデルとの旅〜』

最適なメディアを選択する時代へ

一方デジタルは、図鑑的な物、資料性の高い物に向いているという特性があります。アクセスのしやすさや頻繁に更新できる特徴からも、その事がわかります。ですから企業の中には、自社サイトで製品の生まれた背景や歴史を紹介したり、自社・他社問わず同じ分野の製品を図鑑のようにまとめたコンテンツを持っているところもあります。Vol.05でもお話ししましたが、こういった瞬間に消費されない価値あるコンテンツは、デジタルの成熟とともに増えて行くように感じています。

ところで、僕は趣味で自転車に乗っているのですが、やはり専用メーカーのグッズやウエアを着ると、ぜんぜん違うと感じます。自転車に乗る人のために作られた物とそうでないものでは、当たり前ですが機能性も満足度も段違いです。普段なら専用メーカーではない物でもさほど質に変わりがないと思っていても、高度な機能を求めた時に、その差はハッキリと出ます。

こういったことは軍用品のミルスペック(MIL規格)などに顕著ですが、専門性の高い製品や特殊な用途で使う製品は特に、性能を妥協できません。命に関わる場合があるからです。この考えはサービスやコンテンツにも言えることで、安かろう悪かろうでカバーできる分野と、高品質・高機能でないといけない分野は確実にあり、それらを混同してはいけないのです。それはコンテンツ自体のクオリティだけでなく、どのメディアを選択するかということにも関わって来ます。アナログを選択する、デジタルを選択する、時には組み合わせる。その選択肢や組み合わせは今や無限ですが、僕達はそれだけ恵まれた時代に生きているということの表れでもあります。特にデジタルはこれからますます可能性を拡げ、新しい選択肢を増やしていくでしょう。その幸福を大いに楽しみながら、未来に活かせるコンテンツを作っていきたいと思います。

idiom 操上勝司 katsushi kurigami

操上勝司katsushi kurigami

1966年生まれ。
最近、自転車に乗って自分は坂を登るのが好きだと気付いたクリエイターです。

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