The Interviews

操上勝司「未来を描くデジタルマーケティング」 Vol.03

財産になるコンテンツを!

瞬間的に数字を出す短期的なプロモーションと、時間をかけてブランドイメージを伝えるプロモーション。目先の成果にとらわれると、ブランドイメージは伝えられない。本当にクライアントと消費者のことを考えるコーポレートサイトとは? の問いに、株式会社idiom代表、操上勝司が答えます。
(取材・文/水谷美紀)

消えて行く良コンテンツ

前回(Vol.02)、僕のところには数字を出したいだけでなく、ブランドイメージも伝えたいクライアントが多いという話をしました。そう考えるクライアントは意識が高い企業であるとも言えますが、そこまで考えていなかったクライアントにも、数字を追いかけるプロモーションとブランドを育てるプロモーションの両軸を積極的に提案しています。

話は逸れますが、昔母親に「あんたが小さいころ、寝ていてもテレビコマーシャルが始まると、とたんに目を覚まして見てたよ」と言われたことがあります。
60年代や70年代のコマーシャルは、みんな企業ブランドを伝えていたから面白いものが多かったのでしょうね。

ところが現在の広告ではブランドは伝えられません。なぜなら広告の効果を実数字として求められ、そのスピードも俄然早くなっているからです。
まずテレビCFが作られ、グラフィック広告が作られ、そこに連動したサイトが作られ、商品の発売時にどこまで数字が取れるかに全員が集中する状況が生まれます。連動して作られるサイトのコンテンツも、CFで起用したタレントのインタビューや、新製品に紐づいた内容の記事を作り、相乗的に商品を訴求していきます。これは今、ごく当たり前に多くの企業がおこなっているプロモーションの仕組みです。しかし、これは新しい商品の販促に特化したものなので、本来その企業が持つブランドイメージを伝えることは出来ていないのです。

概ねこのようなプロモーションは商品の販促予算ありきで動いています。年度や期が変われば、いままでの制作物の見直しも行なわれます。その時、ほとんどの制作物は継続して掲出されることなく打ち切られ、サイトから落とされ消えて行きます。タイアップ記事も同じです。継続する場合、タレントやモデルの契約費を延長することになりますが、その予算が計上されることはあまりありません。

新商品のプロモーションは、発売時にピークになるのが重要で、そこで大きくリーチを取らなければなりません。それが広告の使命です。
では、すべてのWEBコンテンツも同じでしょうか。僕はそうは考えていません。特にコーポレートサイトは新商品をアピールするだけでなく、自社のブランドを伝えるのに非常に適したメディアであり、SNSも、新商品情報を届けるだけなく、企業のブランドを丁寧に伝えることに、そろそろ真摯に向き合うべきだと考えています。

ブランドのためになる提案とは?

WEBの良いところの一つに、リンクを貼ることで次々に飛んで様々なコンテンツを見れる点があります。それなのに、契約期間が終了したからといって、せっかく作った良いコンテンツが見れなくなっていく。これでは予算の無駄ですし、非常にもったいない。せっかく作っても消えてしまうのでは、ブランドを伝えることは出来ません。

その辺りを理解している企業は、アーカイブを残す努力を始めています。また、一時的に数字を出すためのコンテンツとは別に、即効性はないけれど蓄積してブランドを伝えられる、いわば財産になるコンテンツの制作の両方を希望されます。それは我が社の考えとも合致しています。

では、財産になるWEBコンテンツとはどういうものでしょうか。色んな考え方がありますが、「また訪れたくなるコンテンツ」というのは必須でしょう。一例として、その企業の商品でなく、その分野が分かる辞書のようなコンテンツなどもいいでしょう。そこに飛べばその分野のことは何でも分かる。Wikipediaよりずっと詳しい。そんなコンテンツを持つサイトなら人は自然と訪れますし、リピーターも増えるでしょう。そこからその企業に興味を持つ人もいるはずです。この蓄積が「この分野といえばあの企業」という認知になり、ブランドの認知に繋がっていくのです。

編集者を企業が雇う時代

いまidiomで行っているコンテンツ・マーケティングの事例としては、田中貴金属さまの北米の技術者向け施策があります。「Elements」と名付けられたWEBページですが、技術を紹介した2分程度の動画と共にテクノロジー・ジャーナリストが客観的な視点でレポートした記事も掲載しています。
少し前のことですが、アメリカの新聞社やメディアで大量のリストラがあり、敏腕といわれた記者の多くが職を失ました。今、その記者達はどうしていると思いますか? 優秀な記者の多くはリストラ後すぐ大手企業に雇われ、企業サイトの編集スタッフやライターとして活躍しています。今、アメリカの企業サイトは、例えばコカ・コーラなどのコーポレートサイトに代表されるように、非常に編集的な作りの物が増えておりメディアとして機能しています。そこには瞬間的に露出して消えるコンテンツではなく、長く読まれ、企業のブランドを伝える良い記事が数多くストックされています。そしてそのためには、優れた編集者や記者の力は欠かせません。日本でも、HONDAなどがそのスタイルを取り入れた形でオフィシャルサイトを運営しています。今後、優れた企業は内部に編集部を作り、即効性だけでない、ブランドを伝えるコンテンツ作りに取り組む時代になるのではないでしょうか。少なくとも僕はそうなることを期待します。

Vol.04 ソフトウエアとエンターテインメントの共通点
idiom 操上勝司 katsushi kurigami

操上勝司katsushi kurigami

1966年生まれ。
最近、自転車に乗って自分は坂を登るのが好きだと気付いたクリエイターです。

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