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操上勝司「未来を描くデジタルマーケティング」 Vol.04

ソフトウエアと
エンターテインメントの共通点

デジタルの分野において、常にトップを走っているアメリカ。そこにはアメリカのお家芸と言われているエンターテインメントとの相似点が見て取れます。今回はマーケティングから少し離れて一冊の名著とともに、アメリカと日本の得意分野の違いについて解説します。
(取材・文/水谷美紀)

なぜデジタルはアメリカが強いのか?

僕達は日頃からデジタルのトレンドを見たり、勢いのある会社を研究したりしていますが、そのほとんどはアメリカの企業です。一般の人にとっても身近なデジタル系企業といえばAppleやGoogleで、デジタルの分野において圧倒的にアメリカが強いことは誰の目にも明らかです。
でも僕が仕事を始めたとき、デジタル分野がずっとアメリカのひとり勝ちだったのかというと、実はそうでもないんです。例えばグラフィックソフトウエアの世界においてはイスラエルやイギリス、フランスなどのソフトウエアが独自の技術を搭載し、使われていた時代がありました。そして今でもAppleやGoogleの技術の根幹にはイスラエルのIT技術が使われていたりします。とはいえソフトウエア技術を統合してサービスを構築という点においては、やはりアメリカが圧倒的です。

良いソフトウエアは音楽のように作られる

なぜこんなにアメリカが強いのか? それを教えてくれる『ハッカーと画家』という本があります。作者は現在、スタートアップ企業へのシードファウンディングを提供するY Combinatorを経営しているポール・グレアムです。

もともとプログラマーだった彼は、いわゆるハッカー(※)で、インターネットストアを作成できるソフトウエアを開発しました。後にYahoo!がそれを約5000万ドルで買ったのですが、それは現在のYahoo!ストアになっています。つまりものすごく成功した人です。ハーバードでコンピューターサイエンスの博士号まで取りながら、一時は画家を目指してイタリアの美術学校に入ったりもした面白い経歴の人でもあります。

※ハッカー…コンピューターに精通した人、あらゆる機能を使い切れる人のこと。ハッキングを行う犯罪者の意味で使われるハッカーのことではない。

そんな彼が自身のウェブサイトで書いていたエッセイをまとめたのが『ハッカーと画家』です。10年以上前に書かれた本なのですが、今だに参考になる部分が多く名著と言われており、IT業界の人間を中心に沢山の人に読まれています。その中で、日本人の特徴について触れている箇所があるのですが、要約すると「日本人やドイツ人はハードウエアの分野に秀でている」ということです。確かに車や都市を見ても、日本やドイツ人は非常に作業がきっちりしていて、いかにも日本人らしい・ドイツ人らしいと言えます。そしてそれはハードウエアを作る上では大きな強みになる。けれどもソフトウエアはそうやって作るものではなく、どちらかというと音楽を作るのに近いものだとポール・グレアムは言っているのです。

それはどういう事かというと、ソフトウエアはハードウエアのように、初めに決めたことを最後まで守り通すようにして作るものではなく、ちょっとやってみたけどヘンだったから変えちゃおうというような、柔軟な姿勢が必要なものなのです。そしてそういった物づくりを得意とするのがアメリカなんです。

アメリカって確かにハードウエアは弱いけれど、ソフトウエアにおいては本当に優れています。でもそれはコンピューター登場以前からエンターテインメントの分野で発揮されてきたアメリカ人の強みともリンクしているのです。

サイトやコンテンツも同じに

古くからアメリカが得意としているエンターテインメントは、設計図通りに作られるものではありません。映画でも演劇でも、やりながらどんどん変えて完成させていく。例えば映画でも、撮影前はこっちの方向から撮影しようと思っていたけれど、実際やってみたら思うような映像が撮れなかった。なら別の方向から撮ってみようという事が当たり前にあるのがエンターテインメントです。ソフトウエアもエンターテインメントと似ていて、柔軟性を持って取り組まないと良い物は出来ないというようなことをポール・グレアムは言っているのですが、まったくその通りだと思います。ソフトウエアの作り方って、実はエンターテインメントに似ているんですね。

日本のソフトウエア作りは、それこそ最初に遷移図や仕様書を固めて一寸違わず構築するのが習わしで、ウェブサイトの場合も同じでした。それがUXの考え方が普及して以降は、サイトの構成もユーザーに合わせて柔軟な設計になりました。さらにデジタル・マーケティング技術のおかげで数値的に改善していく手法も取り入れられるようになりました。ですが、ここにも盲点があって、そもそも存在しないコンテンツは数値に表れません。
もっと求められているコンテンツやアイディアがあるかも知れず、そこへのアプローチは数値的なデータよりは作り手の方での試行錯誤が必要となります。

モバイル中心の情報接触になればなるほど、ソフトウエアとコンテンツの境がなくなり、アプリでもサイトでも映像と写真やテキストが凄いスピードで消費されていきます。そんな現代においては、守りの姿勢になるのではなく、限られた予算や条件の中でも、変更を恐れずより効果のあるコンテンツ作りに柔軟に対応することが求められています。

Vol.05 アクションを起こさせるコンテンツ
idiom 操上勝司 katsushi kurigami

操上勝司katsushi kurigami

1966年生まれ。
最近、自転車に乗って自分は坂を登るのが好きだと気付いたクリエイターです。

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