The Interviews

大城英一郎「ロマンスを生むプロデュース術」 Vol.05

プロデューサー的
リテラシーの磨き方

さまざまな職業の人間を束ねるプロデューサーに求められる能力の一つに、リテラシーの高さがある。それは、あらゆる職業のスタッフやクライアントの言語を正しく読み取り、適切に指示が出せる能力とも言える。プロデューサーに備わっているリテラシーの高さは、生まれつきのものなのか、それとも努力して身につけたものなのか。大城の場合は、意外な職歴が関係しているようだ。
(取材・文/水谷美紀)

全スタッフの仕事を理解しているか?

プロデューサーは実に沢山の人と関わる仕事です。しかもその人達はみな同じ職業ではありません。クライアントも業種は様々ですし、クリエイターといっても、カメラマンにデザイナー、コピーライター、イラストレーターetc.と、皆まったく違う職業です。彼らはそれぞれ独自の言語や感覚を持っていますし、当然ですが一人一人、個性もバラバラです。そんなメンバーを束ねて仕事を円滑に進めていくには、プロデューサーの目線だけで物を言っていては機能しないことがあります。「相手の立場に立って」と言えば簡単ですが、その職業特有の言語や感覚をいかに掴んでコミュニケーションを取れるかで、プロジェクト全体の空気も変わるし、時にはクオリティに大きな影響が出ることもあります。

誰しも経験があると思いますが、自分が必死に取り組んでいる仕事に無理解で一方的な命令をされると、モチベーションが下がるだけでなく、信頼関係を築きにくくなります。これはプロデューサーにとって大きな問題です。信頼し合えないメンバーのいるチームでは、当然いい仕事は出来ないからです。

プロデューサーが気をつけないといけないことは、全体の進行やミッションにとらわれて、個々のメンバーの動きや人となりをろくに見れなくなることです。だからといって、ひたすら低姿勢で機嫌を取ればいいわけでもありません。それはむしろ逆効果で、やはり不信感が芽生えます。理想は、スタッフそれぞれの特性や事情を理解し、そこを踏まえて的確なコミュニケーションができるプロデューサーだと思います。「あ、この人、わかってるな」と感じる相手には、誰もが心を開きます。そうやって信頼関係ができれば、プロジェクトも上手く機能しますし、仮に厳しい状況に陥っても、一丸となって乗り越えることが出来るはずです。

自分は一生懸命やっているのに、どうもチームがうまく機能しない。何故か特定のスタッフとぎくしゃくしてしまう。プロデューサーがそう感じる時は、相手の物差しでなく、自分の物差しだけで話をしている可能性があります。プロデューサーというのは、プロデューサーの目線と同時に、全てのメンバーの目線もシミュレートできる能力が必要なのではないでしょうか。

「その職業なりの言語や感覚」の違い

では僕自身はその能力をどこで身につけたのか。生まれつき持っていたのかというと、もちろんそうではありません。実はずっと長いプロデューサー生活で少しずつ身につけたと思っていたのですが、思い返してみると、20代後半で入った最初の会社での経験が大きく影響していることが分かりました。

この業界に入った時、世の中はマルチメディアブームで、ちょうどCD-ROMが出回り始めたばかりの頃でした。そのため求人広告でも、コンピューターを使える人間を希望するものが多く、たまたま趣味でコンピューターをいじっていた僕は、そこを見込まれてろくに実務経験もないままCD-ROMの制作会社にディレクターとして就職しました。ところが小さな部署だったため実際は何でも屋といったほうがよく、一つの商品を作って売るまでの全ての作業をするのが、僕の仕事でした。つまり企画立案から制作、データの作成、プレスに包装、時には、出来上がったあとの営業からPRといった全業務を、未経験の新人だった僕がたった一人でおこなうことになったのです。当時はパッケージや帯に入るコピーも僕が書くことがありました。

その時に身についたのは、それぞれの工程で関わる専門職の人との付き合い方でした。プログラマー、デザイナー、プレス工場、印刷所と、みんなまったく違う言語で生きているし、その職業特有の思考回路やクセがあることもその時に知りました。ベテランの人や職人気質の人が多かったこともあり、経験のない若者の話などまともに聞いてもらえない事もありました。そんな場面に遭遇するたび、どう言えばこの人達は動いてくれるのだろうと必死で考えました。

また、一つの物を作って売るまでの全ての工程を実際に体験したことで、どのくらいの人が関わっていて、どういう作業があるか、それらはどのくらい時間がかかるものなのかということを知ることも出来ました。つまり、誰かに仕事を依頼した場合、なぜそんなに時間がかかるのかが納得できるようになったのです。

大切なのは「納得できていること」

その頃のエピソードを一つあげると、当時は取り込んだデータの圧縮に膨大な時間がかかりました。今なら一瞬でできるような圧縮が、当時は3日くらいかかることもザラだったのです。ですからスケジュールはタイトながらもその分を見越して組み、その間に出来る作業、例えばパッケージデザインを進めたり、コピーを作ったり、プレス工場のスケジュールを押さえたりするわけですが、時には2日半まで圧縮したところで固まってしまい、一からやり直しになることもありました。そうなると全ての予定が狂ってしまうので大変でしたが、現場の事情を知っているので、納得はできる。そしてそれ以降、固まってしまう可能性も視野に入れて動けるようになりました。これはまさにプロデューサーになった今の動きとほとんど同じです。

こうしてディレクター職を経て、僕はプロデューサーの道を歩き始めたわけですが、この時の経験によって、スタッフやクライアントそれぞれの言語を読み取るリテラシーがついたような気がします。とはいえ、全ての人に僕と同じような経験をするべきだと言うつもりはありません。もし今、仮に未経験の新人を採用したら、自分と同じように小規模な仕事を任せ、一人でやってもらって学んでもらう方法ももちろんあるでしょう。反対に、先輩プロデューサーの仕事に補佐としてつけて全体を見せるやり方もあるでしょう。方法は会社や人によって違うでしょうが、大事なのは、全てを把握できるようになることだと思います。関わる人、かかる時間、作業内容とそれぞれの大変さ。全メンバーの仕事を正しく理解し、それぞれの稼働に対し納得できていることが、プロジェクトを成功させる一つの大きな要因であり、プロデューサーとして欠かせない能力だと思います。

Vol.06 新しいタイプのプロデューサーが活躍する時代へ
PROMANCE 大城英一郎 eiichiro oshiro

大城英一郎eiichiro oshiro

1964年沖縄県生まれ。
斜めに首を振らないよう、ロマンと創意工夫を旨とする。
株式会社プロマンス代表取締役

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