article

2012.04.05 19:49

元社員が作家デビュー

『月だけが、私のしていることを見おろしていた。』(メディアワークス文庫)成田 名璃子

作者・成田 名璃子は、自分のことナリナリと呼んだ。確か青森は恐山の近くの出身で家族全員で占いにハマってるへんてこで奇天烈な一家。武蔵野の方にある国立の外国語大学を出ているらしいが本当かどうかは怪しい(笑)フランスに留学していたというが、それも本人からの伝聞で、一度もフランス語を話す彼女をみたことがないので真相は分からない。うち(dreamdesign.,co.ltd)では、コピーライターとして在籍していた。コピーライターとしては、まあ優秀だったと思う。素晴らしくキレのある面白いコピーを書いた。だが、企画書が書けなかった。彼女には左の脳が無かった。あっ、言い過ぎか。さてさて、彼女の逸話はもう勘弁してくれえええというほど沢山あるが、ここに書くには本人の許可が必要な事ばかり。それって本当かよって言う話ばかりなのだ。もし作家としてブレイクして『徹子の部屋』に出たらお茶の間は年に一度の爆笑の渦に巻き込まれるに違いない。「あらあなたマンガみたいな人生をお過ごしになられたのね」とマシンガントークをぶっ放される。いやもう、笑い過ぎて腹が三回転半ぐらいする面白い話ばかりなのだ。ナリナリ我慢ならないよおお。頼む、喋らせてくれえええ。
今日、本人が遊びに来てくれて献本をしてもらったのを急に想いだしたんですよ。「ごめん、20ページしか読んでない」と正直に言った。アマゾンの書評を見たら、あらら評価が高いじゃない。こりゃあ読むしかないわなあ。みなさんも是非。

☆☆☆☆☆(☆5個)図書館で借りた膨大な量の本を返却期日までに読まなければと思いつつ、書店で購入した本作に手が伸びてしまうことがしばしば。。。一度開けばページを繰る手が止まらず、さっき(現在AM2時前)とうとう読破してしまった。

結論から言うと非常に面白かった。最近読んでいて面白い本、読み終えて「よかった」と思える本に出会えていなかったので、「文壇のレベルが落ちてるんだろうか。。。」と危惧していたのだけれど、
まったくそんなことはなかった。主人公と世代や境遇が近いせいか、最初から最後まで主人公の咲子に完全にシンクロして、一緒に泣いて笑って怒って、それがとても心地よかった。物語の内容はオーソドックスとでも呼ぶべきもので正直目新しさはないのだけど、その悪く言えば使い古されたモチーフでここまで独自の世界を展開出来ることは称賛に値する。本作を読んでいる間中常に感じていた切なさの正体がわかったときには「ああそうだったのか」と更に込み上げる切なさとやるせなさに涙ぐみ口もへの字になってしまっていたけど、それでも本作は幸福感に包まれた優しいハッピーエンドの物語だと思う。

一方的に「してもらう」だけじゃなく、自分から大切な人間のために行動する主人公の姿は、ありがちなラブストーリーの受け身系ヒロインの典型から心地よく外れていて好感が持てた。作の登場人物・友引さんの言葉を借りるなら、やっぱり彼女は「凛として」いて素敵だ。

名璃子さん、素晴らしい物語をありがとう。

このレビューを見た皆さんも、よかったら彼女の透明で優しい世界に是非一度触れてみてください。

☆☆☆☆(☆4個)明るさとユーモアと繊細さを感じさせる文章に好感を持てる。ライトなタッチの作品ではあるが、軽薄さは微塵もない。優しさ・気遣いに満ちていて、それは作品だけでなく「あとがき」にも感じられた。
エッセイストとしての才能もあるのではないだろうか。やや冗長なのが気になるけれど、これからどんどん上手くなっていく書き手のような気がする。コバルト作家から、直木賞作家になった山本文緒さんや唯川恵さんのように、いずれはもっと大人向けの小説作家になることを期待します。

article archive