2011.05.06  海が待っていた!

 岩手県大船渡市の漁師・林さんは、3月11日、大津波のとき勇気をふるって沖に船を出した。そして、自分も船も助かった。が、街は見るも無惨に。

 自分は漁師だ。漁に出たい。しかし、だれが魚を買ってくれるのか? だれが売ってくれるのか? 魚市場施設がすべて破壊されてしまったなかで。

 海産物販売の八木さんの事務所も津波が襲う。八木さんは押し寄せる津波の恐ろしい音を聞きながら、ノートパソコンとケイタイ電話だけをもって逃げた。これまでの流通システムはダウン。回復は、いつになるかわからない。待ってはいられない。魚は海にいるのだ。漁師もいる。

 漁の一部始終を動画でネット中継し、直接消費者に発信しようと気づく。手づくり・最小の販売方法だ。漁師と消費者を直接つなごうと考えたのだ。魚と客をつなぐのだ。

 八木さんは漁師の林さんに声をかけ、2人は船を海に出す。沖へ30分。網の中からカレイ、タコ、カニ、タラなどが、どんどん上がってくる。「海が待っていた!」と林さん。笑顔。豊漁。小型カメラを船にくくり付け、漁の一部始終を動画で写す。それをパソコンに取り込んで発信しようというのだった。ところが、海上からの送信がうまく働かない。

 漁獲を岸にあげる。獲れたての鮮魚をケイタイ電話のカメラで写し、インターネットで発信。詰め合わせセットを作って待つ・・・・。まもなく買い手が! どんどん売れはじめ、半日で完売。宅配便で発送。この初日、87,000円を売り上げた。

 林さんはいう。「生産者の人格が見える商品を、お客さんに直接届けられる」。

 八木さんはいう。「未来に、ちゃんとつながる販売の手応えを感じた」。

<2011.05.01(日)NHK-TV番組『サキどり』での報告から>


 志。発想力。情熱。そして愛。それらがひとつになって、人間を突き動かす。そのとき新しい知恵が生まれた。それが困難を打開した見事な例ではないでしょうか。漁師。鮮魚を食べたい市民。それをつなぐ人。この3者がいて成り立つ、素朴・最小のシステム。流通の基本の姿。しかも3者の人肌が感じられ、商品には熱い願いが付加されている。

 これは「希望」を語っていないでしょうか。

 もうひとつの価値にぼくたちは気づく。それは「共にあるビジネス」ということ、「連帯感」というビジネス。支えあって共に生きる「ともいき」という、これからの社会のイメージです。

 とはいえ、大船渡市の現状は、死者:303人、不明:約160人、避難:6290人、倒壊:3630棟(朝日新聞5月1日)。前途は依然として遼遠です(A)。

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